The Flaming Lipsの新しいアルバム『American Head』は最高だ。近頃はこのアルバムと、BADBADNOTGOODの『IV』を繰り返し聞いている。
The Flaming Lipsのキャリアは相当長いけれど、なぜこうも新しくみずみずしい作品が作れるのかと思う。近年のアルバムは、ギラッと光るようなダークな作品が多かった(それらもすごく良いです)。今作の『American Head』は、悲しみを帯びたトーンの曲は多いけれど、その中に何か新鮮で暖かい光を感じる。バンドのモードが変わったのではないか、と感じた。とにかく繰り返し聴くのをやめられない。
あるいは、ボーカル、フロントマンのウェイン・コインの結婚と、さらにお子さんが誕生したのが大きいのかもしれない。年齢に縛られるのは日本人の悪い癖だけど、写真を見ても60歳に近い人とは思えない。なんというか、そうありたいと思える生き生きとしてカッコいい人だと思った。おそらくかなりの変人だけれど。
このアルバムのタイトルをざっと見てみると、『Mother I’ve taken LSD』というタイトルの曲が目について、少し驚いた。
この曲の歌詞を見て見ると、「お母さん、僕はLSDをやって心が自由になると思ったけど、世界の悲しみが見えるようになってしまった」といった内容だった。
タイトルを見た限りでは何かぶっ飛んだ歌詞が書いてあるのかとも思ったけど、以外にも深い悲しみが歌われていた。なんだか本当に心を掴まれてしまった。
テーマは単純に「薬物、ダメ。ゼッタイ」みたいなことではないとは思うが、救いを求める所に悲しみがあるというのは世の常で、そう考えると世界に対する悲しみを歌ってるようにも感じられる。
でも歌の内容のように、悲しみが見えるようになるというのは人として良いことなのかもしれないと思ったりもする(薬物をやっていいという意味ではなくて、一応)。
この曲で思い出したのが河合隼雄さんが書いていた話で、たぶん80年代ごろの話だと思うけど、シンナーを吸っていた少年に話を聞くと、みんな一様に観音様に包まれたような気分になるという話だった。
観音様は母性的なものの象徴で、不良少年と呼ばれる人たちが母性に包まれることを求めていたという話も興味深いし、この曲もお母さんに語りかけているという内容から何か共通するものがあるんじゃないかと思えてしまう。
確かにこのアルバムは母性的なものが強く芯にあるような感じがする。
バンドに限らず、何かを長く続けるというのはとかく惰性になりがちだけど、新しく自分を更新してこういう作品を作っていける人たちは本当に素晴らしいと思う。
ところで、最後にThe Flaming Lipsのライブを観たのは確か2013年の赤坂ブリッツだった。次に観られるのはいつになるんだろう。というか、次に海外のアーティストのライブを観られるのは一体いつになるんだろう。